ソーシャルコマースマーケティング戦略

オムニチャネル戦略の重要な要素であるソーシャルコマースは、オンラインショッピングにおけるヒト中心のアプローチであり、消費者との関係性を変えることができるものです。
ブランドが、プラットフォーム、クリエイター、消費者とともに、これを正しく理解しなければ機会損失に繋がるでしょう。
ソーシャルコマースの攻略本は存在しないため、ブランドはソーシャルコマースをブランド戦略に統合する最善の方法を特定することが困難となっています。

ブランドは、コンテンツドリブン、体験ドリブン、ネットワークドリブンなど、どのエンゲージメントモデルが最も効果的かを判断していかなければなりません。これには、ある程度のトレードオフが伴うと思われます。多くのブランドにとって、コンテンツドリブンモデル（実際に商品が購入できる投稿など）は当然の選択に見えますが、特定のカテゴリにおいては、それは実に的を射ているのです。このようなモデルでは、コンテンツが王様であることは明らかで、ブランドとそのパートナーは、クリエイティブである必要があります。

クリーニングブランドは、このようなカテゴリの一例であり、大きな成功を収めています。#Cleantok videosは、さまざまなブランドの掃除手腕を視覚的に満足させるものとして、一種の現象となっています。例えば、「#CloroxMistChallenge」はTikTokで80億回以上再生されており、ユーザーはオリジナルの掃除動画と自分なりの「グローアップ(掃除成果)」を並べ、さまざまな工夫を凝らした変身コンテンツを生み出しています。ユーザーは、TikTok上の#CloroxMistChallengeランディングページから、「Shop Now」ボタンでアプリ内販売店に移動することができます。

体験ドリブンモデルには、ライブストリーミング、ゲーミフィケーション、拡張現実が含まれることがあります。例えば、ソーシャルメディアユーザーの10人中6人近くが、美容とパーソナルケアに関するライブストリームを見る可能性があると答えており、ストリームはしばしば買い物客を引きつけるためにエンターテイメント要素となっています。E.l.f. Cosmeticsは、Twitchにブランドチャンネルを設けた最初の美容ブランドで、ゲームとメイクアップを結びつけています。食品もまた、急成長している分野です。「mukbang」と呼ばれる食事番組は、現在TikTokで518億回再生されており、中国のインフルエンサーViyaは、2020年にこのライブストリームを通じて約1億2500万米ドル相当の食品を販売した実績を持っています。これは、食料品店Carrefourの年間売上のほぼ50％以上にあたります。

メタバースの盛り上がりを受けて、多くのブランドがバーチャル・コマース体験を模索しています。例えば、ウォッカブランドが物理店舗に模してCoachellaに設置したバーチャル空間、Absolut.Landが挙げられます。来場者は、ここでカクテルを作ったり、限定グッズや割引、賞品を獲得したりすることができます。

一方、食料品の主食といった購入リスクの低いカテゴリは、既存のソーシャルネットワークやコネクションを活用したグループ購入などのネットワークドリブンモデルを活用し、新たな消費者層へのブランドリーチ拡大が期待できます。4人に1人以上の消費者が、食料品に関連するソーシャルコマース体験を「必須要素」と評価しています。その一例として Pinduoduoは昨年度、グループ購入を通じて1600万人の農家と869万人の購買者を結び、610億の注文獲得を記録しました。こうしたモデルは、ユーモアでキャッチーなコンテンツ、プロモーションやインセンティブなど、ソーシャルネットワークを通じて、広く共有できる「フック」がある場合に、最も効果的に機能するのです。

ブランドは、より効果的なエンゲージメントモデルを選択することに加え、最も効果的な販売経路の確保も重要となってきます。消費者への直接販売には、明確な利点があります。それは、消費者のブランド体験を綿密にコントロールし、関係を深め、ソーシャル・マーケティングのパフォーマンスを向上させるためのデータ収集に最適な方法だからです。美容ブランドのKiehl'sは、ターゲットストーリーとMessengerボットを使用して消費者からの直接注文を可能にしたベトナムでのFacebookキャンペーンで、22％の売上増を達成させました。

しかし、さらにブランドの認知度を高め、新しい消費者やコミュニティとエンゲージするためには、コミュニティにおいて信頼を築けているインフルエンサーのようなパートナーを活用することがより有効的でしょう。

ソーシャルコマースといった人の力（影響力など）を用いる世界では、インフルエンサーは、「プロモーター」から、オーディエンスの理解を利用してブランドの成長を支援するための戦略的「パートナー」へと進化しています。しかし、そのためには、ある程度のコントロールを放棄し、他人に運営を任せることも必要となってきます。レストランチェーンのChipotleは、Chipotle Creator Classに参加者を集い、そこで新しいアイデアや戦略のブレストをしてもらい、ブランドの未来を形作る支援を呼び掛けています。一方、Chipotleはクリエイターのキャリアアップを支援し、長期的なコラボレーションを促進するためにさまざまな特典や機会を提供しています。

パートナーの知名度は必ずしも高くある必要はありません。実際、アクセンチュアの調査によると、ブランドの大小に関わらず、影響力の源泉はそれぞれの持つ友人であることが分かっています。加えて、調査によると、フォロワー数が5,000人未満のマイクロインフルエンサーの方が、フォロワー数が100万人超えのインフルエンサーよりも信頼性が高く、常に最も高いエンゲージメント率を示しています。2020年には、マイクロインフルエンサーは5％のエンゲージメント率を達成したのに対し、100万人以上のフォロワーを持つインフルエンサーたちはわずか1.6％にとどまりました。

コントロールの放棄に踏み切れない場合でも、バーチャルインフルエンサーを利用することはできるでしょう。中国では、既に60%以上のソーシャルメディアユーザーがバーチャルキャラクターをフォローしており、エンゲージメント率は実際の人物とのやり取りよりも3倍高くなる可能性があるといわれています。L’OrealやLaneige、Estee Lauderなどの美容企業は、現在、バーチャルブランドアンバサダーを有しており、彼らをキャンペーンの顔として使っています。

「ピープルパワー」を本当の意味で活用する準備ができているブランドだけが、熱狂的な消費者を、ブランドのアドボケート(支持者)やマーケティング担当者、販売者に変換していくことができるのです。ブランドは、このような消費者-販売者が生み出す信頼のハロー効果から、大きな利益を得ることができるのです。

中国KFCはアクセンチュアと共同で、WeChatのミニプログラムを通じて、誰でも所有できるバーチャルKFC店舗を作りました。消費者はコンテンツ制作者であり、宣伝者でもある。消費者は、バーチャル世界に自分の店を作り、実店舗で扱われる商品を販売し、友人の店にキャンディー(特典)を追加し、友人同士で店舗人気やランキングを競うことができるのです。

今日のユーザーの大半（72％）は、成熟度の低い層に属します。こうしたユーザーの多くは、ソーシャル・チャネルの利用を開始するにあたり、商取引の基本機能が整っていることや、インセンティブや割引があることを条件としています。その最たるは、米国や英国のような成熟していない市場で多く見られます。

今日における成熟した消費者は主に中国、インド、ブラジルなどの市場に多くいますが、ブランドがソーシャル機能を向上させることで、他の市場への展開もスピードアップさせることができるでしょう。成熟した消費者は、ライブストリーミング、ライブチャット、バーチャルショップ、バーチャルリアリティのような様々なインタラクティブ機能を利用しています。彼らにとっては、ソーシャルコマースはショッピング体験を向上させる重要な要素であり、そのために市場価格より30%も高いプレミアムを支払うことも厭いません。こうした動きが、ソーシャルコマースの価値はますます高めているのです。

現時点では、成熟した消費者は3人に1人といった割合に過ぎません。しかし、ソーシャルコマースが普及するにつれ、この割合は飛躍的に増加してくるでしょう。ただし、それは、ブランドが消費者に対しインセンティブを与え、段階的な成功経験を設計・提供することによってはじめて実現されます。ブランドにとっては今が重要な転換期であり、いち早く実現できれば、未成熟な消費者でさえも取り込むことが可能となるでしょう。

ブランドとして、さまざまな打ち手があります。成熟度の低い消費者のソーシャルコマースへの参加を促すために、割引やインセンティブを提供することも一案です。これは、新規市場への参入を目指すエンゲージメントの低いカテゴリにとっては、特に効果的な戦略となるでしょう。また、ブランドはショッパージャーニーにソーシャル機能を導入することで、消費者を魅了し、興味を持たせ、リピーターとして育てることができるのです。

以下のような例があります：

Warby Parkerが行っているバーチャル試着は、購入者の信頼感を向上させ、結果として返品を減らすことができる。
ショッピング中に交流できるFabFitFunのようなグループチャットや、おすすめの購入方法の共有など、友人と共有できる体験を作る。例えば、Atom ticketsは、友人同士が協力して映画の座席を隣同士で予約できるSnap Miniを発表している。
チャットアプリや動画でのコンサルティング(相談)の場を提供。Unilever brand Comfortは、ブラジルのWhatsAppで洗濯や衣類のケアに関するアドバイスを提供するチャットボットを立ち上げ、1週間で1万2000人の顧客を取り込み、売上を14倍に伸ばしている。
買い物客が購入することで、ブランドアドボカシーを示すことのできるバーチャル商品。例えば、Estee Lauderは最近、Advanced Night Repair Serumから着想を得て、アバターに輝きを与えることができるNFTウェアラブルを発表。

これらの要素を分析することで、価値創造のための適切なビジネスモデルや最適な製品・価格構成、ターゲット消費者の設定、最適な取り込み方法など、どの市場でどう勝ち抜くかを判断することができます。アクセンチュアは、理想的なチャネルミックスのシミュレーションを行うため、2025年の世界市場規模をカテゴリ別に分類するとともに、プラットフォーム別の潜在的な収益を明確化しました。

2. 大きな飛躍の前に、小さな一歩とパートナーシップを：ソーシャルコマースは、大規模かつ急成長している複雑な領域です。とはいえ、ブランドは、一度にあらゆる場所に進出する必要は必ずしもないのです。プラットフォームをベースに、既存のエコシステムに目を向け、ユニークな体験を想像してみましょう。ソーシャルコマースの急速な拡大と収益性の高い成長を実現するために、立ち上げ、活性化、拡大化に最適なケイパビリティとパートナーシップを特定する必要があります。例えば、eコマースにソーシャル機能を追加したり、ソーシャルプラットフォームでコマース機能を開発したりなど、最もシンプルに始められるところから着手してみてはいかがでしょう。

3. 生きたモデルを構築する：テスト＆ラーン方式でパフォーマンスを迅速に分析し、戦略を調整しましょう。このダイナミックで進化するコマース環境において、どのような変化（例えば、消費者、プラットフォーム能力、可能性の進化）があっても、最も機会の多い分野に適応し、サービスを提供し続けることが必要です。次回は、インフルエンサー、クリエイター、セラーがソーシャルコマースのエコシステムで果たす重要な役割と、彼らが必要とするさまざまなタイプのサポート、そして、プラットフォームとブランドがともに最も最適に連携できる方法について取り上げていきます。

出典
¹Accenture Social Commerce Econometric Model, based on data from the Accenture Social Commerce Shopper Survey and triangulated third party inputs

Note: 2025 market size estimated based on market momentum and optimization of consumers’ preferences. Includes products or services ordered via social networks, regardless of the method of payment or fulfilment. Includes B2C and C2C transactions. “Other categories” included in total social commerce market, though not explicitly called out. “Other categories” included in total social commerce market. “Other categories” includes, but is not limited to: automotive & parts, media (books, music, video), pet care, office equipment & supplies, toy & hobby. In China, “other categories” includes services like travel and insurance.

ソーシャルコマースマーケティング戦略とは

概略

複雑化するソーシャルコマースに対応した正しいブランド戦略の策定

複雑な市場において正しい選択をする

適切なエンゲージメントモデルを選択する

市場投入までの最適な道のりの選択

ターゲットとする消費者を見極める

ソーシャルコマースの可能性を探る

著者について

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