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調査レポート

変革という常套句を乗り越える

変革を成長の機会に変え、持続可能な成果を実現する - 業界をリードする保険会社の共通点

5分(読了目安時間)

2025/06/25

概略

  • 「変革」という言葉は保険会社にとってあらゆる状況に対応できる常套句となっていますが、すべての変革プログラムが同じように作成されているわけではなく、明確さを欠いたままでは、変革の本質が見失われかねません。

  • 適切な変革で成果を上げている業界をリードする保険会社は、保険料収益を平均8.1パーセント向上させ、経費率を2.6パーセント削減しています。

  • 競合他社と比較すると、これらの先進企業は、自動化とワークフロー管理、デジタル化、運用モデルの合理化において指標を上回っています。

先進企業は何を達成しているか

変革プログラムを成功させるための鍵は、精度と影響度の高い領域に的を絞って実行される施策(ターゲットアクション)にあります。アクセンチュアの分析によると、財務分析を通じて特定された保険業界の先進企業は、同業他社と比較して、保険料収益が8.1パーセント、経費率が2.6パーセント向上していることがわかりました。

先進企業の財務的成果

変革プログラム開始時を基準とした費用・保険料収入の改善推移。縦軸は平均的な変化量(ポイント)、横軸は2つの施策カテゴリを比較しています。「経費率の変化」と「保険料収益の成長」「経費率の変化」を見ると、薄紫色の「卓越した企業」は-2.3、濃い紫色の「同業他社」は0.3となっています。「保険料収益の成長」では、薄紫色の「卓越した企業」は6.9、濃い紫色の「同業他社」は-1.2となっています。縦の矢印は、保険料収益の成長に関する業界をリードしている企業と同業他社間の差が+8.1パーセントポイントであることを示しています。
調査ハイライト

アクセンチュアの調査では、世界245の保険会社の経営幹部324名を対象としたアンケート、12名の変革リーダーとの詳細なインタビュー、そして81社の保険会社における変革プログラム期間中の財務分析を実施しました。このグループの中で、38社の保険会社が先進企業として浮上しました。

先進企業の定義

アクセンチュア調査では、S&P Capital IQ、AM Best、各国の規制当局のデータベースなどの公的な財務情報を活用し、各保険会社の変革プログラム期間における相対的な業績を時系列で評価しました。測定期間は、変革プログラム開始年から2年後までです。この期間中に、経費率の改善と保険料の増加の両方を達成した企業は、先進企業と定義されました。財務実績はすべて、変革プログラム開始時点を基準に指数化しています。

変革を推進する要因は何か?

保険業界における変革プログラムの主な推進要因は、技術的進歩とイノベーションです。AIや生成AIなどの新しいテクノロジーは、業務や顧客とのやり取りの広範な改善を促進するために不可欠です。

設問:変革プログラムの主な推進要因は何ですか?(ランキングトップ3)

横棒グラフは、保険業界の変革を推進する要因について、324名の回答結果を示しています。 主なドライバーは「技術革新」と「商品イノベーション」(ともに61%)で、次いで「ビジネスモデルの適応」(48%)、「インシュアテックの活用」(26%)、「地域ニーズ」と「コスト圧力」(いずれも19%)が挙げられています。
横棒グラフは、保険業界の変革を推進する要因について、324名の回答結果を示しています。 主なドライバーは「技術革新」と「商品イノベーション」(ともに61%)で、次いで「ビジネスモデルの適応」(48%)、「インシュアテックの活用」(26%)、「地域ニーズ」と「コスト圧力」(いずれも19%)が挙げられています。

変革という常套句の罠を回避

「変革」という言葉は、現在の保険業界で行われている多くの取り組みを表すラベルとして使われていますが、実際の内容はもっと複雑で曖昧です。こうしたプログラムは、通常、明確な目的を持って始まります。たとえば、価値を生み出すために、特定の施策をポートフォリオとして実行することなどです。しかし、プログラムが進むにつれて、「変革」という言葉の意味があいまいになり、個々の活動をまとめて社内の足並みを揃えるため、あるいは予算を確保するための便利な表現として使われるようになります。その結果、現場の人材には次のような形で負担がかかることになります。

  • 変革疲れ:絶え間ない変化の中で働く社員は、次第に不満を感じ、仕事への意欲を失い、燃え尽きてしまうことがあります。

  • 信頼の喪失:新たな変革プログラムの頻繁な発表は、根本的に何らかの問題があることを示唆し、懐疑的な見方や社内の抵抗が高まります。

  • 責任の所在が不明確に:部門や事業単位ごとに「変革担当」の肩書きが増えるにつれ、誰が変革の全体方針を担っているのかが曖昧になってしまうことがあります。

  • 持続性を欠く施策への懸念:変革プログラムで実現したコスト削減は、ほぼ持続可能だと考える保険会社幹部の割合はわずか15%です。

変革プログラムの枠組み

設問:貴社のプログラムは、組織内でどのように認識され、実行されましたか?

パーセントを示す明るい紫の棒がある横棒グラフ。ラベルと値は、上から下で次のとおりです。「変革として」が39%、「継続的改善として」が33%、「モダナイゼーションとして」が19%、「進化として」が7%、「改革として」が2%となっています。
パーセントを示す明るい紫の棒がある横棒グラフ。ラベルと値は、上から下で次のとおりです。「変革として」が39%、「継続的改善として」が33%、「モダナイゼーションとして」が19%、「進化として」が7%、「改革として」が2%となっています。

卓越した企業は何が違うのか

卓越した企業は、特定の測定可能な目標を用いて変革プログラムを定義し、組織全体が目的と期待される成果を確実に理解できるようにします。明確な期待を設定することで、変革疲れを回避し、従業員の自信とエンゲージメントを維持します。さらに、テクノロジーリテラシーやデータ分析などの長期的なケイパビリティの構築に重点を置き、チャネルの最適化、製品のイノベーション、競争力のある価格戦略を推進しています。こうした企業が取り組んでいる施策の多くは、プラットフォームのモダナイゼーションに焦点を当てたものでした。業界をリードしている企業が、同業他社と比較して優れた成果を上げている上位3つの分野は次のとおりです。

01

自動化とワークフロー管理

82%

自動化とワークフロー管理を活用して運用を合理化している卓越した企業の割合。同業他社は72%でした。

保険会社の視点:私たちの目的は、効率性と生産性を高めて利益を拡大し、成長を促進することでした。データ分析や最先端のツールに頼れるように、従来のシステムを削除する必要がありました。紙からSTP(ストレートスループロセッシング)に移行し、プロセスをデジタル化して、機械学習やAIを使用できるようにするためのインフラを構築する必要がありました。

02

デジタル化

79%

顧客とのインタラクションを強化するためにデジタル化に投資している先進企業は、同業他社(65%)を上回っています。

事例紹介:たとえば、ある保険会社が新しいSAPセールスステアリングシステムを導入し、ITセキュリティ分野では新しい識別/アクセス管理システムを導入し、従来のシステムを廃止しました。顧客の請求はデジタル化されるようになっています。新しいシステムへの投資は、セールスパートナーがより効果的かつ円滑に業務を遂行するのに役立ちました。

03

運用モデルの合理化

55%

業績優秀な企業の 55% が業務モデルの合理化と統合に重点を置いているのに対し、同業他社では 44% となっています。

保険会社の視点:コスト削減と業務効率化は、ほぼ常態化していると言えます。現在必要なのは、ケイパビリティを構築することです。データ分析、ある程度のPythonコード、RPAといった技術的リテラシーが鍵となります。  また、金融サービスと保険商品の連携について、社員が理解していることが重要です。

本質を捉えた変革とは

わずかな「認識」と「実行」のズレが、成果に大きな差を生む - それがこの結果の示す本質です。保険のパフォーマンスを上げるには、正確な変革の規律を習得することが不可欠です。

筆者

Jeff Mitch

Managing Director – Insurance Strategy, Americas

Kenneth Saldanha

Senior Managing Director – Insurance Lead, Americas

Khalid Lahraoui

Senior Managing Director – Insurance Lead, Global and EMEA