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調査レポート

ネットゼロ達成への近道

10分(読了目安時間)

2022/04/23

概略

  • 航空業界は2050年までにネットゼロを目指していますが、同時に利用者の増加も見込んでおり、これは何もしなければ炭素排出が自然増となることを意味します。

  • この業界がネットゼロを達成するには、航空機そのものとエネルギー源の脱炭素化を同時に進める必要があります。

  • ネットゼロを実現するには11の重要な技術があることが研究によって明らかにされました。

  • ネットゼロの達成に向けては、官民が共に歩みを進めることが重要です。

航空業界が持続可能な未来へのリーダーになる姿は想像しにくいかもしれません。2050年までにネットゼロを達成するという目標を掲げる組織が航空業界で増える中、環境への悪影響を減らす革新的な方法を見つけるために日々努力してきました。しかし、今日の航空業界が直面している課題は非常に大きなものです。向こう20年間で世界の航空旅客数はほぼ倍増すると予測されており、これにより燃料消費と炭素排出が増加することは確実です1

航空業界の炭素排出量は現在の年間世界炭素予算の約2%です。専門家は2050年までに、地球の平均気温上昇を産業革命以前の水準から1.5°C以下に抑えるためには、航空業界が脱炭素関連予算の12〜27%を消費すると予測しています2

2050年までにネットゼロを達成する野心的な目標を達成するには、多面的に取り組む必要があります。これには、産業と政府のイニシアティブの組み合わせ、エコシステムの活用、エネルギー源の変化、新技術が全て必要です。また、エネルギー供給と航空機そのものの両方の脱炭素化にも同時に取り組むことも必要です。

タイミングがすべて

では、どの技術が最も期待されているのでしょうか? エネルギー供給の脱炭素化には、持続可能な航空燃料(SAF)、水素、または電池が挙げられるでしょう。航空機そのものに関しては、アクセンチュアの「Horizon 2050」レポートでは包括的な評価手法を用い、業界、学術界、政府のステークホルダーからの広範な入力と分析を含め、主要な技術革新を特定しました。

一部の技術、例えば複合材や航路最適化ソフトウェアはすでに大規模に使われ始めています。しかし、いくつかの技術は中長期でより広範な支援が必要です。以下は、時間枠に関する詳細です:

  • 2030年まで:すぐに市場投入可能な技術
  • 2030年から2040年:計画段階にある中期的技術
  • 2040年以降:研究開発段階にある将来有望な長期的技術

具体的な時間枠を定義する中で、中長期の展望と活用可能な11の技術のリストを策定しました。公的資金の直接投資や官民連携パートナーシップ、産業のインセンティブなどが、2050年までにネットゼロ排出を目指す業界の進展に不可欠です。具体的な展望を詳しく見ていきましょう。

2030年から2040年:小型機の再構想

近い将来、業界ではいくつかの革新的な進展が予想されていますリージョナルジェットおよびナローボディ機向けの技術の一部はワイドボディ機にも適用可能ですが、実際に運用するには、スケールアップさせるための時間と投資が必要です。

高圧エンジンや複合材などの技術は、中期の時間枠で最も実現可能性が高いとされています。一方、ハイブリッドエンジンは技術的複雑さや高エネルギー密度バッテリーの開発が求められるため、実現可能性が低いと見られています。

これらの技術は、リージョナルジェットの規模が小さいため、航空産業の炭素排出を大幅に削減することはありません(1%〜20%の範囲内)。このセグメントには多数の小型機が含まれており、アドレス可能な市場の一部を占めていますが、それでも比較的早い段階で影響を与えることができます。

注:平均最大削減可能排出量な排出削減率は、特定の技術が適用される市場セグメントで達成できる削減率として計算しています。
注:平均最大削減可能排出量な排出削減率は、特定の技術が適用される市場セグメントで達成できる削減率として計算しています。

2030年から2040年の時間枠での注目技術

2040年以降:ネットゼロに向けた加速

2040年以降に向けて、新たな解決策が登場することが期待されています。

超音速トラスブレースドウィング(革新的な翼設計)、オープンローターエンジン(より効率的なエンジン設計)、機内電力用燃料電池などの技術は、この長期の時間枠で最も実現可能性が高いです。水素推進は技術的複雑さとそれを実現するためのインフラ投資が求められるため、実現可能性が最も低いです。

このセグメントの技術は、排出削減において大きな潜在能力を示しており、1%から46%の削減が見込まれます。しかし、これらの技術を早期に航空機開発プログラムに取り入れ、実用化するには長期間を要するという課題もあります。大型機が航空業界の炭素排出量の45%を占めていることから、これらの技術をさらにスケールさせれば、航空機の全体排出を大幅に減少させることが可能ですが、それは2050年以降となるでしょう。

注:平均最大排出削減率は、特定の技術が適用される市場セグメントで達成できる削減率を指す。
注:平均最大排出削減率は、特定の技術が適用される市場セグメントで達成できる削減率を指す。

2040年以降の時間枠での注目技術

持続可能なエコシステム

中長期における新技術のポテンシャルは無限大です。企業と政府機関からの適切な支援があれば、2050年までに有望な排出削減効果をもたらすことができると考えられます。

しかし、これらの技術が成功するためには、企業と政府機関が連携をとる必要があります。両者は以下の3つのことを行うことで、これらの技術推進に重要な役割を果たすことができます:

1

安定した財源に結びついた複数年の戦略計画の策定

2

国際機関と連携した産業標準を形成

3

安全と時間を両立させる新技術の実装

航空業界が脱炭素の最前線に立つ姿を想像することは難しいかもしれません。しかし、ライト兄弟やアメリア・イアハートなど、空に挑戦してきた無数の革新者は、空には限界がないことを示唆しています。

更に詳細な方法論については、私たちのレポート「Horizon 2050- A flight plan for the future of sustainable aviation」をご覧ください。

筆者

John Schmidt

Senior Managing Director – Aerospace & Defense, Global

David Silver

Vice President – Civil Aviation Aerospace Industries Association