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ブログ

テクノロジー(AI)と人間の双方で変化する“人間らしさ”とは?

~Accenture Technology Vision 2024より~

3分(読了目安時間)

2024/06/26

概略

  • 過去数年でAIの表現能力は飛躍的に進化した。その結果、テクノロジー(AI)と人間の双方で“人間らしさ”に変化が生じている。すなわち、テクノロジーは人間性が組み込むことで人間らしさを増し、かたや人間の能力はテクノロジーによって拡張され、新たにデザインされた人間性とでもいえるものが誕生している。

  • Technology Vision 2024では、テクノロジーの進化が促すAIと人間の「共進化」のありようと、それがビジネスにもたらす影響を4つのトレンドとしてまとめている。

テクノロジー(AI)と人間の双方で再定義が進む“人間らしさ”

テクノロジーやAIは我々の想像をはるかに超える進化を遂げています。文字や言語、音声、画像の認識能力や理解・推論能力は人間と同様あるいはそれ以上のレベルに達し、AIは人間のような高い表現能力を有するようになりました。

その結果、何かが起こっているのか?それは、テクノロジー(AI)と人間双方における“人間らしさ”の変化、あるいは再定義です。どういうことでしょう?テクノロジーについていえば、生成AI(LLM)の登場によって、あらかじめ人間性(と感じられる何か)を組み込めるようになったり、あたかも感情や意識を有しているかのような人間らしいテクノロジーが生まれています。かたや人間の側でも、空間コンピューティングやヒューマンマシンインターフェースなどのテクノロジーによって我々の能力は拡張され、従来とは異なる「新たな人間性」を持ち得るようになっているのです。

テクノロジー(AI)と人間それぞれに変化が起こっているわけですが、両者はまるで車の両輪のごとく密接に絡み合いながら共に進化(共進化)を遂げています。2024年のTechnology Visionでは、どういった変化がそれぞれに起きていて、それがビジネスにどのような影響を及ぼすのか、4つのトレンドとしてまとめています。

トレンド1 AIによる出会い (A Match made in AI)

生成AIの登場によって、ヒト・情報のマッチングは、ライブラリアンモデル(答えがありそうな場所を提示)から、アドバイザーモデル(答えそのものを提示)へと変化しつつあります。普段使う検索エンジンに閉じた話ではありません。たとえば、Salesforce社は、顧客情報の管理・検索といった従来型のCRM機能に加えて、営業マンに対してあるべき行動(Eメールを送るべしなど)をアドバイスしたり、そのためのコンテンツ作成支援ができるような機能を提供するようになっています。

こうした中、企業は、自社に蓄積されたナレッジやデータを活用して、自社ならではの、差別化されたアドバイザーモデルを実現できるかが問われています。その際、LLMを差別化するためのアプローチが必要で、たとえば独自LLMを開発したり、ファインチューニングをしたり、RAG(Retrieval Augmented Generation)といった手法が考えられます。

いずれにせよアドバイザリーモデルへの変化は、企業がデータ主権を取り戻すチャンスでもあります。直接ユーザとつながり、対話し、その結果さらに多くのユーザデータを受け取ることのできるようなAIエージェントを構築できるか否かが、今後の企業競争力の優劣を決めるでしょう。

トレンド2 自分専用エージェントとの出会い (Meet my Agent)

図らずも、AIエージェントというキーワードが出ましたが、二つ目のトレンドはまさにそれに関するものです。Open AI のCEOサム・アルトマンが「有用なAIエージェントがAIのキラーファンクションになる準備は出来ている」と語るように、生成AIは単に作業を効率化する存在から、人間に寄り添い、可能性を広げるパートナーへと進化しつつあります。そこで重要なのが、私たちの意識変革です。残念ながら、米国に比べると日本人の多くが生成AIの利用目的は業務効率化(文章作成や要約・校正、情報検索・調査・分析など)だと考えています。米国ではアイデア生成を目的とする意向が強く、マインドセットには歴然とした差がみられます。

実際、Open AIのBe My Eyesでは、AIが視覚障碍者の方の視覚を肩代わりすることでできることを拡張したり、Googleでは(答えではなく)解き方を教える先生AIをリリースしたりと、生成AIを活用した様々なアイデアやユースケースが具現化されています。アクセンチュア日本法人でも、プログラムを初めて学ぶ社員に寄り添い、優しく指導してくれる熟練プログラマのAI老師なるものを開発しました。導入前と比べて技術の習得レベルが飛躍的にあがり、その想定以上の効果には自分も素直に驚きました。

さて、トレンド1、2ではテクノロジーが人間性を組み込まれることで人間らしさを増していく様子をご紹介しました。トレンド3、4では人間側、すなわち、人間の能力がテクノロジーによっていかに拡張されていくのかを解説していきます。

テクノロジーによるAIと人間の”共進化”が企業に及ぼす影響を見極めるための最新トレンド
テクノロジーによるAIと人間の”共進化”が企業に及ぼす影響を見極めるための最新トレンド

トレンド3 私たちが必要とする空間 (The space we need)

人間の能力拡張にとって重要な技術の一つが空間コンピューティング(Spatial Computing)です。本稿では空間コンピューティングを、仮想現実(VR)・拡張現実(AR)を包含した“人間が作用することができる空間の拡張”と定義して話を進めます。

そもそも我々人間は五感を通じて外部世界を認識し、情報を受け取っています。仮想空間の標準化が進み、生成AIによる空間生成が高速化すると共に、Apple Vision proに代表されるデバイス進化とリアリティ・精度の向上が進めば、我々が知覚・体験できる領域は従来の物理的制約を超えて大きく広がります。映画の世界のような話が現実に起こりうるのです。メタバースやXRは一過性のブームだったのでは、と思う方もいるかもしれません。しかし、米国では若年層のVR所有は3割と超えて増加していますし、日本国内でもガートナー社のハイプ・サイクル2023を見ると、メタバースは過度な期待期・幻滅期を迎えこれから啓発期・安定的な生産期に向かうとされ、より広範な概念としての空間コンピューティングに至っては今まさに黎明期を迎えようとしているとされています。

実際に、医療機関では圧倒的没入感や精細な触感の再現によってオペや臨床の習熟度を向上させるためにこれらの技術を活用し始めています。また、Open AI社が2024年2月に公開したSoraは、誰もが自由に物理シミュレーションを踏まえた空間生成が可能になる未来を示し、見るものに驚きを与えました。こうして生み出されたデジタル空間でのコンテンツ生成の自動化に、人間を加えていくといった試みも始まっています。

もちろん、技術の進化や活用と合わせて、ヒトが安心して没入できる環境をいかに担保するか、といった安全面での手当ては必要です。しかしながら、次に紹介する最後のトレンドと合わせ、人間の可能性が未知の領域にと一歩広がっているのは確かといえます。

トレンド4 デジタル化された私たちの身体 (Our bodies electronic)

スマートデバイスによる音声対話によるインターフェース、VRゴーグルによる目線や身体の動かし方によるインターフェース、そしてブレインコンピューティングによる直接的な脳神経の把握や制御など、ヒトとテクノロジーの間をつなぐインターフェースは多様化・発達してます。その結果、単純な情報のインプットだけではなくこれまでにない細やかさで人間の情報や意志をテクノロジーに伝達させることができ、目の動きを解析することで次の行動を予測しパーソナライズされた広告を展開するなど、本人ですら気づいていない潜在的ニーズを察知し、価値提供することが可能になっています。

他にも、たとえば中国の上海市にある同済大学では、歩行者の動きから道路横断の意思を読み取り自動運転の安全性向上に活用させようという試みをしたり、またアクセンチュアにおいても米国のコーネル工科大学と連携し、ヒトの明確なフィードバックなしに、その表情や声音・動きなどからロボットが自らの犯したミスに気づけるようなモデルを開発しています。

かくしてヒューマンインターフェースが高度に人間に組み込まれていけば、人間とテクノロジーはますます分かちがたくなり、意識すらされないうちに常時滑らかに融合することになります。包括的かつ機微な情報を常時吸い上げることで、テクノロジーは個々の人間を、一人称視点で理解していくことができます。我々人間からみれば、まるで自分の分身となる以心伝心のテクノロジーが、いつも自分の傍によりそってくれるという世界が訪れうるのです。

最後に

以上で4つのトレンドの紹介は終わりですが最後に一言。皆さんジャズセッションをお聴きになったことはありますか?それぞれが自分の楽器を持ち、決まった曲に対して順番に楽器を奏で一つの大きな曲を仕上げていきます。著者は、テクノロジー(AI)と人間の共進化はまるでジャズセッションのようなものだと感じます。演奏は既に始まっています。その輪は次第に広がり、企業、従業員、顧客、テクノロジー基盤など、あらゆるものを巻き込みながら、新しい世界を形づくっていくことでしょう。人間にとって恩恵のある、ワクワクする世界を共に作り上げていきたいと思います。

筆者

山根 圭輔

執行役員 テクノロジー コンサルティング本部 クラウドインフラストラクチャーエンジニアリングサービスグループ日本統括 兼 インテリジェントソフトウェア エンジニアリングサービス グループ共同日本統括 シニア・マネジング・ディレクター