―― マツモトプレシジョンは「コネクテッド・マニファクチャリング・エンタープライゼス(CMEs)」をいち早く導入しましたが、それまでどのような課題を抱えていたのでしょうか。
松本 マツモトプレシジョンは1948年に創業した福島県喜多方市の精密機械部品メーカーです。私自身は当社の経営を継承するために2014年に入社し、2017年に社長に就任しました。前職の小売業から畑違いの製造業へと転身したわけですが、入社してすぐに経営課題として感じたのは、従業員数が約150名という企業規模でありながら、それに見合う収益が上がっていないことでした。従業員は残業や休日出勤も行うなど日々忙しく働いているのに、なぜか儲かっていない、十分な給与を支払えていないという現実を目の当たりにし、業務の生産性向上に取り組むことが急務だと考えました。
そうした中、会津産業ネットワークフォーラムで行われたアクセンチュア イノベーションセンター福島 共同統括 マネジング・ディレクターの中村彰二朗さんの講演をきっかけに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進して業務を見直し、会社を変革していく必要性を強く認識するようになりました。
とはいえ既存システムを刷新してDXを進めていくには、まとまった金額の投資が必要になるという経済的な不安がありました。また、デジタル技術に精通した人材が社内にいない状態でデジタル化を推進しても、果たしてうまくいくのかという不安もありました。
―― そうした不安を乗り越え、CMEsを導入するまでの経緯を教えてください。
松本 CMEsを導入したのは2021年4月ですが、導入に向けた準備は2018年5月から始まりました。当時、会津産業ネットワークフォーラムにおいて「コネクテッド・インダストリーズ」をテーマに、私たち地場企業の経営者、アクセンチュア、会津大学など立場の違う人たちが集まって中小製造業の生産性を向上させるための議論が行われましたが、当社もそれを出発点とし、まずは私自身が経営者としてシステム刷新の必要性についての知識を身につけ、さらにその思いを役員やIT担当の社員に伝えていきました。このプロセスにおよそ1年半から2年を費やしています。
関口 私は以前、半導体メーカーに勤務していました経験から、ERPを維持・運用していくには専門スタッフが必要で、イニシャルコストもランニングコストもかかることを知っていました。ITを担当するプロパー社員もERPについての知識がほとんどありませんでした。
しかし、これはむしろ良かったと思います。下手に知っていると、ERPの課題や問題点が先に出てくるからです。今回はERPを導入するとどのようなメリットが得られるかといった部分を前面に出して、アクセンチュアの皆さんに丁寧に説明してもらいました。またCMEsを利用すれば、イニシャルコストはゼロ、ランニングコストも非常に安価だということが理解できたこともあり、CMEsの導入機運が一気に高まりました。