最後にビジネスのTo-Beを分析し、未来予測型の経営を実践している企業の典型例として、アークス社を紹介します。
独自の食文化、地域性、商習慣が多い日本の食品スーパーマーケット(SM)業界において、アークス社はM&Aをへて規模を拡大し北海道・青森・岩手でシェアトップになりました。そのグループ経営を支えている八ヶ岳連峰経営という手法は買収した企業の特色を生かしながら、各事業会社に権限を委譲し、各事業会社が経営にあたり、各地域のニーズにもよりきめ細かく対応する地域密着経営を可能にさせ、緩やかな集合体として相乗効果を生み、商品調達や物流などでスケールメリットも享受できます。これらにより従業員のやる気も引き出しています。
消費者のニーズの変化が早く多様化する食品SM業界は、常に市場リスクにさらされています。その一方で、アークス社は販売活動を通じて店舗に網の目のように情報網を張り巡らせており、ビジネスの先行きを判断する先行指標を各地域からキャッチできます。そうした情報を徹底分析することによって起こり得る変化とそのリスクを想定し、手にするリターンを最大限に引き出すために、アークス社は最近、SAP導入事例が少ない日本の食品SM業界において、M&Aで業容を拡大してきた8社連合の会社に対してデジタルトランスフォーメーションのプラットフォーム(システム統合基盤)を導入するという難易度の高いプロジェクトをビッグバンアプローチで稼働させ、グループ会社の全社基幹系システムと情報分析システム(図4)をSAPで刷新しました。
アークス社の情報分析システムの特徴は店舗のPOSデータや単品(JAN)別の仕入、在庫、荒利等のデータを統合データベースで管理している点です。これはSAP HANAのインメモリー技術を積極的に活用することで実現しており、単品別の明細データのビックデータ(約240億件/年)を統合データベースに蓄積し、データマートレスで日々の営業情報の把握から経営情報を経営管理の切り口で把握するレポートまでを実現しています。
データマートレスのため、将来、経営管理のニーズが変化したときにはこの明細データが蓄積された統合データベースからデータを抽出するレポートを変更することで、柔軟に新たな経営管理用のレポートの出力が可能となっています。またこのレポートは各事業会社の地域ニーズに応じて、容易にカスタマイズができるようにセルフBIを実現しています。
これらにより上述したアナリティクスでの「問題は何が原因だったのか?」を把握するために、時間帯別単品別データまでの詳細分析ができ、「どんなアクションが必要か」を知らせるアラートを実現しています。例えばある商品カテゴリの荒利に異常が発生していれば、仕入が過剰となったロス率や在庫回転の異常値をアラートで検知ができ業務アクションへとつなげることができます。
アークス社はPOSからの明細データ等のビックデータをデータ資産としてSAP HANAに蓄積しており、今後、この資産化されたビックデータをAIに予測分析をさせることで、効率的な販売促進や各店舗での仕入や在庫/ロスの更なる適正化をする施策への対応も検討しています。
これらは一例であり、当日の時間帯別売上速報をリアルタイムに把握する機能等のシステム強化を継続しています。加えて経営のPDCAサイクルは月次でしたが、新システムでは店・商品カテゴリ別損益の実績を日次で把握し、月中に当月末の損益の着地点を把握し、当月中に仕入や在庫のコントロールをすることを目指す素地ができました。この鮮度の高い情報を活用して月中に月末の着地見込みから本部や店舗でのオペレーション改善につなげ、更に予算の精度を向上させることで確実に業績を伸ばします。このような効果をだす業務範囲を広げ、これを業務フローに反映し、この業務フローを全グループ会社で運用して多様なリスクへの対応を可能にすることで、継続的に成長するための体制の強化をしています。
SAP社は主力SAPソリューション分野での取組みや成果、ビジネスの実績、優れた導入プロジェクト、お客様への高い価値の提供といった様々な観点から評価し「SAP AWARD OF EXCELLENCE」を授与しています。アークス社のプロジェクトはSAPの導入事例が少ない日本の食品SM業界の会社に対してのデジタルトランスフォーメーションのプラットフォームの導入が評価されて、優秀賞「プロジェクト・アワード」を受賞しました。
SAP AWARD OF EXCELLENCE 2020受賞の公開サイト