柳 日本初のデジタルバンク、みんなの銀行が2021年5月28日にサービス提供を開始して以来、まさに私たち生活者の"みんな"が新しい金融サービスの幕開けを体験しています。本日はあらためて、みんなの銀行のはじまりの物語を振り返りたいと思います。
横田 みんなの銀行の設立背景からお話しします。2015年の海外赴任中、まだリーマンショックの傷が癒えきっていないにもかかわらず、欧米の銀行ではすでにデジタル分野への積極的な投資がなされていることを目の当たりにし、驚きました。同時に、異業種企業や新興のフィンテック企業の参入によるビジネスモデルの変革も急速に進んでいました。いわば、銀行のライバルが銀行業界の外に存在する状況です。この流れは日本にもやってくる。そうであれば先手を打ちたい、と考えました。
一方、日本国内ではこれらがまだ「手触り感のある脅威」とは受け取られておらず、近隣の地銀や全国規模のメガバンクがライバルであるという認識が主流です。それに加えて、銀行内部でデジタルはITシステムの同義語として捉えられがちでした。なぜなら銀行そのものがシステム・オブ・レコード(SoR)の巨大な勘定系システムで成り立っているからです。銀行にとってデジタルは勘定や記帳といったトランザクションを自動化する業務効率化のための存在でした。つまり、顧客にとっての体験や価値を生み出すものとは認識されていませんでした。
みんなの銀行の親会社、ふくおかフィナンシャルグループ(FFG)の経営陣は変革に躊躇しません。不易流行、変えてはならない価値はしっかりと守りつつ、変えるべきことは大胆に変える。新しい変化を捉えて価値を提供していく。経営陣が変化を積極的に後押ししてくれたからこそ、みんなの銀行は誕生できたともいえます。
永吉 私がFFGの企画部門の戦略チームに在籍していた時、経営陣から1つのテーマが与えられました。「10年後、銀行はどうなっているか。金融業界はどのように変化しているか。その将来を見据えて、我々はいま何に取り組むべきか。具体的アクションプランを含めて報告してほしい」。みんなの銀行プロジェクトの源流を辿ると、この問いかけが出発点でした。
3年程度であれば、比較的高い精度で予測できます。しかし10年となると、様々なテクノロジーの影響がある中で予想は非常に困難になります。しかし、生まれた時からテクノロジーが身近で日常的に使いこなしている「デジタルネイティブ世代」と呼ばれる人々が社会の中核を担っていることは確か。この世代の価値観や思考は、長年にわたって銀行がお取引してきたシニア層のお客様とは大きく異なると考えられます。
現在のこの世代はシニア層と比べて預金規模がまだ小さく、ローンや融資といった金融商品を必要とする機会も少ないといえます。そのため、規模の経済でビジネスモデルが回っている銀行にとっては新サービス開発等の投資をしても収益化には長い時間が必要です。しかし世代交代は待ったなしで起こります。10年後の銀行は、デジタルネイティブ世代の方々から選ばれ続ける存在となっているだろうか。湧き上がってきた強烈な危機感が、私たちの間で共有されはじめました。
すでにデジタルネイティブ世代は、あらゆる業界のサービスを通じて最新のデジタル体験を得ています。そうした方々に使っていただけるサービス・商品を、いつ作りはじめるべきなのか。未来はいつはじまるのか。今しかない、それが私たちの結論でした。
柳 未来の銀行を直ちに創りはじめるべきという必然性を強く感じるエピソードです。
永吉 2015年、ニューヨークで開催された世界最大級のフィンテックのイベントを視察した際に受けた衝撃も大きかった。UI/UXや体験設計が考え抜かれているので、言語による説明が最小限でも直感的に理解できました。日本の銀行サービスは世界的に極めてクオリティが高いと自負できます。しかしUI/UXや顧客体験の観点では話が異なります。日本の銀行に足りないものは体験そのものの再創造だろうと思ったのです。