―― デンマークでは2000年から時間をかけて市民の理解を得ながらデジタル化を進めてきたとのことですが、デンマークの成功要因について教えてください。
安岡 デンマークのデジタル化が進んでいるのは「小さい国だから」と言われることが多いのですが、それだけではありません。もちろん小さい国なので、データベースやシステムをスケールしやすく、横並びで進めやすい部分はあります。
しかし、最も大きな成功要因の1つとして「失敗できる文化」があると考えています。例えば重要なシステムにセキュリティ上の問題が発覚した際、どこに問題があるかを詳しく公表・説明し、このように直すといったリカバリーを行います。この部分が、デンマークの得意とするところです。
また、「多様性を大切にする」という点も成功要因と言えるでしょう。デンマークには外国人が1割ほど居住していますが、そうした人たちも巻き込みながら物事を進めます。あらゆる市民が意見を言える環境や教育の体制も整っています。
さらにもう一つ、「メディア活用」も大きいと考えています。デンマークのメディア界で活躍する人たちは学問として理論・メディア倫理を学び、本質を伝えることに長けています。また、市民を巻き込んだ建設的な議論の舞台づくりが上手です。 政府も積極的にメッセージを伝える努力を惜しみません。政府からのコミュニケーションにおいても北欧が得意とする洗練されたデザインを活用している点も含め、日本が大いに学べるのではないでしょうか。
中村 まったくその通りですね。とくに安岡さんが挙げてくださったメディアについては、日本の大きな課題でもあります。日本では行政と市民が二極化しており、市民は行政に対して不満の声を挙げるものの、自分たちでは何もしないのが実情です。ところがデンマークでは、行政と市民が一体化し、一極のトラストな関係を築き上げているのでしょうね。
安岡 そうですね。米国でも行政と市民が対立するコミュニティが多いのに対し、欧州では「やりたいことは同じ」という思いを共有し、行政と市民が一緒に知恵を出し合って考えるコミュニティが主流です。行政と市民が協力して地域を良くしていくという考え方が日本でも浸透していくべきだと考えています。
―― 会津若松市スマートシティでは、目指すべきものとして市民のWell-being向上を掲げています。市民のWell-being向上に向けて、デンマークから学べることはありますか。
安岡 デンマークでは個人が尊重されているのに加え、ミクロ視点で物事を判断しています。例えばコロナ禍において、政府は国全体で一斉にロックダウンするのではなく、「この道路沿いは感染者が増えているので、周辺住民は検査を受けてください」という通知を送付します。これにより、それぞれの地域の状況に沿った判断が下せます。このようにスマートシティのデータを市民のWell-being向上に役立てているところは、デンマークに学べるところでしょう。
中村 安岡さんの話を伺って、私たちが会津若松スマートシティで取り組んできたことが間違っていなかったと確信できました。日本はトップダウンで物事を決めることが多いのですが、実際には地域によって事情が違うので、トップダウンとボトムアップをうまく併用していかなければなりません。
安岡 デンマークの取り組みは世界中から注目されていますが、それを単純に日本に当てはめることはできません。日本は国の規模やスキルセットも違うので、日本ならではの得意分野、上手なやり方もあるはずです。例えば会津には長い歴史や教育に熱心な風土があります。これらをうまく掘り起こしていくことで、その土地だからこその幸せなまちづくり、すなわち市民のWell-being向上につながると考えています。